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【法学】不退去罪とは なぜ受験生は不退去罪容疑で逮捕されたのか

いらっしゃいませ! 人文社会科学LABOへようこそ! こちらでは、こんなことしてます。よろしければ、ご覧になってみてくださいね。

miyamot.hatenablog.com

共通テストがひと段しましたね。受験生の皆さんはお疲れ様です。初の共通テストでコロナ禍もあり、予想はしていましたがイレギュラーが多かったようですね。なかでも、私の目を引いたのは受験生が不退去容疑で逮捕されたというニュースでした。

不退去容疑ってなかなか耳慣れない方も多いのではないでしょうか。実は、この「不退去罪」、ちゃんと刑法に規定されているんですね。

ということで、今回はこの不退去罪について解説していこうと思います。

それでは、いってみましょう!

 

 

1.不退去罪とは

なかなか耳慣れない不退去罪ですが、これは刑法ではどんな風に定義されているのでしょうか。まずは条文を見ながら考えていきましょう。

1-1.刑法130条 不退去罪の定義

130条

正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する

*1

上記条文の赤字の部分が不退去罪を規定したものになります。前半は「住居侵入罪」の規定になります。これだけだと具体的にそれぞれの犯罪がどういったものかが見えにくいので2つの犯罪の違いを見ながら不退去罪がどういった犯罪か理解しましょう。

1-2.住居侵入罪との違い

条文には不退去罪住居侵入罪の具体的な違いは明記されていませんが、以下に違いをまとめておきます。

  • 住居侵入罪入ってはいけない場所故意わざと)に入る罪。
  • 不退去罪入ってもよい場所もしくは、過失不注意で入ってはいけない場所に入り、出ていってくださいと言われたにもかかわらず出ていかない罪。

つまり、住居侵入罪の方は、侵入禁止の場所に入った時点でその罪が成立します。一方、不退去罪の方は、どこかしらの場所に入っただけでは成立せず、退去の要求があった後に退去しないことで罪が成立するわけですね。

では、故意(わざと)に侵入禁止の場所に入り、退去の要求があったにもかかわらず、退去しない場合はどうなるのでしょうか。これだとどちらの犯罪の成立要件も満たしているように見えますが、どうでしょう。

これは、結論だけ言うと不退去罪は住居侵入罪に吸収されて住居侵入罪のみが成立すると考えられています。今回は割愛しますが、刑法には「罪数論」と呼ばれる犯罪の成立個数を考える分野がありまして、この分野から説明がされています。いろんな学説や議論があり、難しいですが面白いところでもあるので気になった方はぜひ調べてみてください。

2.住居、邸宅、建造物の違い

住居侵入罪と不退去罪の違いと、不退去罪がどんなものかは理解いただけてでしょうか。簡単にまとめると入るの「場所」が重要だということがお分かりいただけたかと思います。

では、次にその「場所」について考えていきましょう。わかりやすくするために「艦船」については今回は割愛します。

2-1.「住居」「邸宅」「建造物」の定義

条文を思い出してみましょう。「住居」「邸宅」「建造物」と似たような文言が並んでいますよね。ところが、この違いについては明記されていません。これは条文ではなく判例によって定義されています。法的にどんな違いがあるのか見てみましょう。

  • 住居:日常的に使用されている場所。(最決昭和28.5.14刑集7巻5号1042頁)
  • 邸宅:居住用の建造物で住居以外のもの。最判平成20.4.11刑集62巻5号1217頁)
  • 建造物:住居、邸宅以外のもの。(最決平成21.7.13刑集63巻6号590頁)

これでもなかなかイメージ湧きませんよね。少し具体例を見てみましょう。

①については、一般的な「家」やそれに準ずる設備がある場所が該当します。ですので、マンションの一室やホテル、旅館なども住居に該当します。

②については、空き家や閉鎖中の別荘、マンションの共有部分(共用階段、屋上など)などが該当します。

③については、官公庁の庁舎(役所などの建物)、学校、工場、倉庫などが該当します。

3.今回の事例を考察

さて、ここまでの知識で今回の事件を考えるための道具は揃いました。なぜ、受験生は不退去罪の容疑で逮捕されたのか見ていきましょう。

3-1.不退去罪の適用

今回の事件の記事を張り付けておきますね。

逮捕された男性は、失格後試験会場の大学学校)でトイレに約4時間閉じこもり、退出に応じなかったと記されています。これは、試験監督側から退去の指示があったが、それに従わなかったということですね。

では、条文と判例に従って当てはめてみましょう。

まず、大学は学校になりますから建造物に該当します。次に、男性は受験資格をもって受験会場(大学)に入っていることになりますので、住居侵入罪の可能性は消えます。その後、資格を喪失しトイレにこもったが、退出に応じなかったということなので退去の要求があったが、退去しなかったということになりますね。

以上のことから、男性は不退去罪の容疑で逮捕されたということになります。

4.まとめ 不退去罪の事例

いかがでしたでしょうか。今回は「不退去罪」について実際の事件をベースに解説してみました。まだまだ紹介しきれていない論点(不作為犯未遂罪規定罪数論などなど)が多いので物足りない方もいらっしゃったら申し訳ないです。気になった方はぜひ調べてみてください。リクエストがあれば、今回は割愛した論点も取り上げてみようかと思います。

今回は珍しい場面での不退去罪の適用となりましたが、悪質な訪問販売や布教活動などで警察沙汰になったなんて話を聞いたことがあるのではないでしょうか。これは、不退去罪の成立可能性がありますし、最近だと元交際相手のストーカー行為やつきまとい行為が問題視されていますが、これらも不退去罪になる可能性があります。別れているのに部屋から出ていかないとかですね。

聞きなれなくても意外と身近だったりするかもしれませんね。もちろん、基本的には刑法にお世話にならない方がいいことではありますが(笑)

ということで今回はここまでになります。

感想、質問、リクエストなんでもウェルカムなので、ぜひ気軽にくださいね。お待ちしてます。 ではまた次回お会いしましょう。