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【法学】「結婚の自由を全ての人に」裁判の判決要点解説 なぜ同性婚裁判は少ないのか

いらっしゃいませ! 人文社会科学LABOへようこそ! こちらでは、こんなことしてます。よろしければ、ご覧になってみてくださいね。

miyamot.hatenablog.com

前回の更新から久しぶりの更新になってしまいました。皆さんお久しぶりです。

先週のニュースになりますが、私的ビックニュースが舞い込んできました。

ご存知の方も多いかもしれませんが、同性婚裁判について日本史上初の司法判断がなされました。

これまでに、同性婚の可否ついて裁判所が合憲か違憲かの判断はしてきませんでしたが、いよいよ同性婚を認めない現在の制度は憲法に反しているとの判断をしました。

法学専攻の私にとってはとてもセンセーショナルなニュースで解説せずにはいられず筆を執った次第です。実際はタイピングした次第ですが...。

ということで、今回も初学者向け、学生向けに今回の判例とプラスアルファで大学の法学の内容を少し解説していこうと思います。

それではいってみましょう!

 

 

1.訴訟の概要と判例解説

まずはどんな裁判なのかなぜ裁判になったのかを見て、そのあとに判例の解説をしていきます。

なお、この一連の裁判は、東京、大阪、名古屋、札幌、福岡の5か所の地方裁判所で行われましたが、今回取り上げるのは札幌地方裁判所での判決になります。

1-1.訴訟の概要

「結婚の自由を全ての人に」と名付けられた今回の裁判は、2019年2月4日に東京、大阪、名古屋、札幌の4か所で13組の同性カップルが国を訴えたことで始まりました。

その後、2019年9月5日には福岡でも訴えが提起され、5か所で裁判が進んでいたという状況です。

同性婚をしたいが、婚姻届けが受理されないことで、精神的な損害を被ったため、国に損害賠償請求をしています。

ただ、彼らの真の願いは、結婚制度を平等にし、同性婚を認めてほしいというものであると原告側の弁護団の話で分かっています。

1-2.裁判の争点

この裁判でポイントとなる争点は、2つです。

  • 同性婚ができない状態が違憲
  • 同性婚ができない状態を国が維持しているのは違法か

①については、同性婚を認める規定がない民法や戸籍法が憲法13条24条に違反するかが争われました。

②については、ⅰ)①のような状態を放置している国が憲法14条に違反するか、ⅱ)その状態を改善してこなかった国に賠償請求できるかが争われました。

以下、争点①と争点②-ⅰ)、争点②-ⅱ)とします。

判例解説の前に今回取り上げる条文を見ておきましょう。

日本国憲法第13条

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。*1

日本国憲法第24条1項

婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

日本国憲法第24条2項

配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。*2

日本国憲法第14条1項

すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。*3

国家賠償法第1条1項

国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うにつて、故意又過失によつて違法に他人に侵害を加えたときは、国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずる。 *4

 1-3.判例の解説

では、札幌地裁はどう判断したのか見ていきましょう。

判決文のリンクを載せておきますね。解説と照らし合わせてみるとより理解が深まると思います。

【判決要旨全文】「同性婚できないのは憲法違反」札幌地裁が日本初の判断 | ハフポスト (huffingtonpost.jp)

先に結論だけ示しておきます。

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同性婚裁判 札幌地裁判決の結果

一見、矛盾する部分がありそうにも見えますが、どういう理屈でこの結論に至ったのでしょうか。

ここからは、上記条文を参考に読んでいただければと思います。

1-3-1.争点①について

まず争点①についてですが、判決のロジックはこうです。

憲法24条1項「両性」は、異性婚を定めたもので、同性婚を定めたものではないとします。そして、同条2項具体的な婚姻の制度は、国会の立法裁量に委ねられると解釈します。

憲法13条については、包括的人権規定であり、この条文を根拠に特定の制度今回は同性婚を認める制度を求めることはできないとします。

こう考えると、憲法の考えが読み込まれた民法や戸籍法といった婚姻に関する諸法そのものは、24条13条に反していないと言えますね。

まとめると、以下のようになります。

24条「両性」という以上、やはり異性婚を規定していて、(異性婚、同性婚を含めた)婚姻に関する制度の整備は立法権を司る国会に任されている13条からは条文の性質上、同性婚を認めることはできない

憲法のこうした考えのもとに、民法や戸籍法などの法律は作られているから、それらの法律に同性婚を認める規定がないからといって24条13条に反しているとは言えない。

1-3-2.争点②-ⅰ)について

次に争点②-ⅰ)についての判決のロジックはこうです。

まず、婚姻について法的な定義をします。

  • 婚姻:当事者とその家族の身分形成をし、その身分に応じた権利義務を伴う法的地位が付与される法律行為

例えば、夫婦の間に子が生まれると、その親である夫婦には親権(子供を養育したり、子の財産を管理したりする)という権利義務が生じます。

他にも、遺産相続で仮に夫が先に死亡した場合、その妻には夫の遺産の相続権が発生します。

こんな風に、婚姻親や夫、妻という身分を形成し、その身分に応じた法的な権利義務を生じさせる行為だと定義するわけですね。

そうすると、同性婚については婚姻を認める制度がないから、これらの権利義務(法的利益)は享受できませんね。ここから、異性婚と同性婚の間に区別があるとします。

そして、この区別は性的指向(ここでは異性を性対象とするか同性を性対象とするか)のみによるものだとします。

この性的指向について、判決はこのように考えます。

  • 性的指向:性別や人種と同様に自らの意思で決められない個人の性質

上記の婚姻という制度が明治民法以来継続し、今でも多くのカップルが婚姻をすることから婚姻によって生じる法律効果(上記の婚姻によって生じる権利義務)を享受することは、重要とします。

そのうえで、異性婚と同性婚の違いが性的指向のみであり、性的指向本人の意思で選択できないということから、同性婚も異性婚も等しく婚姻の法律効果を享受されるべきであるとしました。

さらに、判決は法的な婚姻の目的について次のように考えます。

  • 婚姻の目的:子の有無にかかわらず、夫婦が共同生活をする関係に法的な保護を与える。

これを踏まえて、憲法24条民法などの法律は同性愛者の共同生活への法的保護を否定してはいないと解釈しました。

以上内容から、争点②-ⅰ)では以下のように判断されました。

憲法民法などの法律が否定していないため、異性婚と同様に同性婚も婚姻の法律効果を享受されるべきであるが、同性婚には一切の婚姻に関する法的保護が設けられていない

これは、婚姻制度を設ける権限をもつ国会(立法府)に憲法14条違反がある

1-3-3.争点②-ⅱ)について

これについて判決は次のように考えています。

同性婚制度がないことの合憲性について、今まで司法判断がなかったことや世論が同性婚に肯定的になったのは比較的最近であること、国会で議論が始まったのも平成27年以降であることを根拠に挙げて、国会が14条違反をすぐに認識できたとは言いにくいとして損害賠償請求を認めないと結論付けました。

2.判決にみる条文解釈と憲法裁判

ここでは、判決への理解をより深めるための知識を解説していきます。

2-1.法の段階的構造

こんな図を見たことがありませんか。

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法の段階的構造

これは、法の段階的構造と呼ばれるものです。より一般的には、法のヒエラルキーと呼ばれたりしますね。

これは、下位の法が上位の法に反してはならないとする法同士の関係を表しています。

例えば、図の「規則」は上位の政令「条例」に反する内容であってはなりません。これを繰り返すと結局、憲法より下位の法はすべて憲法に反する内容であってはならないということになりますね。

だから、憲法は日本の最高法規と呼ばれるわけですね。

さらに、見方を変えると、下位の法は上位の法の考え方に従ったものでなければならないということができます。

これは、日本の法を考えるうえでかなり重要な性質になってきます。

憲法は確かに日本の最高法規で他の法とは別格ですが、じゃあこれだけで国の運営がすべてうまくいくかといわれたら無理があります。

これは、憲法の内容が抽象的だからです。

例えば、上記の24条1項を見てみてください。婚姻って両性の合意だけで成立するとありますが、婚姻届けのことは書いてないし、事実婚はどうなるのかも書いてないですね。

つまり、憲法ってそれだけだと分かりにくく、疑問が出てくる作りになっているんです。この理由もちゃんとありますが、今回は割愛します。

だから、憲法の考え方をより具体的にしていくために法律や政令、条例、規則などがあるんですね。

この考え方は、1-3-1.での判決のロジックに使われています。

2-2.憲法13条後段 包括的人権規定

憲法13条憲法の条文のなかでも、独特な条文の1つです。

2つの文から構成されていますが、1つ目の文を前段、2つ目の文を後段と呼びます。

前段については、個人主義を規定したもので議論が多いところではありません。

  • 個人主義:個人が人間社会の価値の根源であるとする憲法の基本原理。

ところが、後段については難解な部分が多いです。

後段の内容は、幸福追求権と呼ばれています。議論になるのは、この幸福追求権がどんな法的性質を持っているのかというところですね。

現在、通説となっているのは、幸福追求権新しい人権の根拠となる規定としての性質を持つということです。

  • 新しい人権憲法上明文化されてはいないが、時代や社会の変化に伴って憲法上保障されるべき人権として新たに出てきたもの。

プライバシーの権利自己決定権肖像権環境権といった言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。新しい人権の具体例ですね。

これらの人権は、日本が工業化し公害問題が発生したことや情報社会で個人情報の保護が重要となってきたことで出てきた人権になります。

つまり、13条後段はこういった新しい人権を主張する根拠となる性質を持っているということです。

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幸福追求権のイメージ図

ただし、これは少し注意が必要です。

幸福追求権を根拠に個別化した新しい人権なら、まだ裁判で主張(○○の人権侵害だとか、○○の人権を認めてほしいとか)することができますが、幸福追求権それ自体は、まだ見ぬいろんな人権が包括された人権であるため、具体的に主張することが難しいわけですね。

だから、13条後段幸福追求権包括的人権規定と呼ばれ、今回の判決でもこれに基づいた特定の制度は認められないとしてしていました。

2-3.付随的違憲審査制

判決では、同性婚について今まで司法判断がなかったと述べられていました。最後に、これはどういうことか解説しておきます。

国会や地方公共団体の作る法律や制度がすべて完璧だといいのですが、ルールや秩序を作るのもやはり人間なのでときには、憲法に反した法律や制度が存在してしまうこともあります。

そんなときは、その法律や制度が憲法に反していないかを判断する必要がありますよね。これを違憲審査制と呼びます。

これは、抽象的違憲審査制付随的違憲審査制に大別されますが、日本では付随的違憲審査制を採用しているとされます。今回は、付随的違憲審査制のみ解説します。

  • 付随的違憲審査制:通常の裁判所が具体的な事件の裁判に際して、その解決に必要な限りで違憲審査を行う。

意味わかんないですよね(笑)

これは、いきなり「○○は、憲法違反だ。」とか「○○は憲法△△条に違反するのでは?」と裁判所に訴えることができないということです。

では、どうやって違憲審査を行うのか。

まず、何かしらの具体的な事件の裁判が起こらないといけませんこの事件を解決する過程で(事件解決に、裁判に付随して)必要な範囲で違憲審査を裁判所が行うことになります。

これでもいまいちピンとこないですよね(笑)今回の同性婚裁判で当てはめていきましょう。

今回の事例に当てはめると、いきなり「同性婚を認める制度がないのは、憲法違反だ。」と裁判をすることはできません。

だから、今回の事例は同性婚を希望する人々が、役所に婚姻届けを提出して受理されなかったということで裁判を起こし(具体的事件、裁判が起こり)、その解決の過程で(事件解決、裁判に付随して同性婚を認める制度がないのは違憲かが判断されました。

ややこしいですよね(笑)

こうした違憲審査制を採用しているため、まずは具体的な事件、裁判がないと違憲審査はできないわけです。だから、今まで同性婚について司法判断がなかったし、少なかったわけですね。

3.まとめ

いかがでしたでしょうか。今回は同性婚裁判について解説していきました。

法学を学ぶと論理的思考を駆使しながら、世の中の動きを見ることができるようになります。

今回は、同性婚について初の司法判断がなされ、間違いなく制度面で同性婚の可否に関する議論が活発になっていくでしょう。

もちろん、制度面がしっかりと整備されることも重要ですが、私達一人ひとりが精神面でも同性愛者の方々を受け入れることができるようにしていかなければいけないと思います。

制度だけでなく、社会的にももっと寛容な雰囲気になると、より多くの人々がのびのび生活できそうですよね。

いくら法律や制度があってもみんながそれを無視してしまえば、ないも同然ですから。

ということで、今回はここまでです。

ではまた次回お会いしましょう。

感想、質問、リクエストなんでもウェルカムなので、ぜひ気軽にくださいね。お待ちしてます。 ではまた次回お会いしましょう。